神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
茜の表情に、怒りと嫌悪がうかがえる。
次いで、吐き捨てるように言った。

「“花嫁”を馬鹿にした発言よねぇ? 役職じゃないんだから。
文字通り首がかかってる(・・・・・・・)のを知っていて言ってんのよ? ふざけてるわ」

話の方向からして嫌な予感はしていたが──。

「それって、私は用済みってことですか?」

他人事のように訊き返す咲耶に、茜はゆっくりとまばたきをしながら首を縦に振ってみせた。

「そう。──殺されるわ、アンタ」






茜の死刑宣告に、咲耶は一瞬意識が遠のきそうになったが、気を取り直して確認する。

「えっと。それは、決定事項なんですか? せめて猶予期間とか……」

「尊臣は気が短いの。聞いたことない?
アイツの側近連中も「御意ギョイ~」としか言わないから、議論もへったくれもあったもんじゃないのよ。
気の毒だけど、このままじゃアンタは確実に消されるわ(・・・・・)
“仮の花嫁”とはいえ、すでにハクの“主”になっているワケだし……アンタが存在する以上、新しい“花嫁”は召喚できないから」


茜は咲耶の右手の甲を指差した。そこには、白い“(あと)”がある。
咲耶がハクコの“主”だという“(あかし)”。


「……アンタが『宴』に乱入したって話を聞いた時、アタシは馬鹿なことしたもんだって思ったわ。
いい歳して、分別のない子だってがっかりもした。

けど美穂は、アンタの気持ちが解るって。
アタシが同じ目に遭わされたら、迷うことなくアンタと同じことをしただろうって、言うのよ」


茜は目を伏せ、ゆるく波打つ髪に片手を突っ込む。


「だから……アタシがここにいるのは、美穂に言われたからなの。アタシは正直、尊臣っていう面倒ごと(・・・・)には、関わりたくはないのよ。

アタシの一番は美穂であって、アンタやハクじゃない。アンタ達がどうなろうと、知ったこっちゃないっていうのが、本心だし。

けど……それこそ、美穂が黙っちゃいないだろうし、アタシも多少は、寝覚めが悪いしね。
──ってワケで、これがアタシの、精一杯の譲歩」


短く、茜は息をついた。
その場でかがみこむと、咲耶と目線を合わせる。


「アタシに訊きたいことは、ない?」
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