神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
言うだけ言って、女は少年の肩を抱き、きびすを返した。
ひるがえった女の衣から、なまめかしい白い素足がのぞく。
女は中華服のような、すそから大腿のあたりまでに切れ目の入った黒い着物を身にまとっていた。
「無事に儀式を終えたら、わしの屋敷に遊びに来るとよいぞ」
などと、軽い調子でひらひらと片手を振り、少年は女と連れ立って行った。
「──来い」
言って、ハクコが二人を見送っていた咲耶の手首を強引につかむ。
揺るぎない力に言葉も気力も失ったまま、引きずられるようにして連れて行かれる。
小道を抜けると先ほどから見えていた灯りが、開かれた視界を照らした。
十数人の色とりどりの着物を着た老若男女が、咲耶たちを通すように両脇を固め、その先に何があるかをはっきりと浮かびあがらせる。
──祭壇と、社だ。
祭壇の正面に立った中年の男が、ハクコと共に在る咲耶をすがめ見た。
「来たか。──そなた、名は?」
「…………松元咲耶、です」
「歳は?」
「あの……二十八、です……」
周りの人々が、ざわめいたのが分かった。
だが、中年の男は「そうか」と、ただ相づちをうった。
「では、咲耶。これからそなたは、ハクコと奥にある神殿で、“契りの儀”を交わしてもらう。
初めに申しておくが、そなたにこれを、拒否することは叶わぬ。それは、死を意味する。
よいな?」
(いいかって……断れないって先に言っておいて、なに訊いてんのよ……)
ハクコ同様、狩衣姿の中年男は、続いて心のうちで突っ込む咲耶の横にいるハクコに、目を向ける。
「そして、ハクコ。
尊臣様の命により、この儀が、そなたにとっての最後の機会であることを、もう一度、告げておく。
四度目はない。よいな?」
「……はい」
無表情に、ハクコがうなずく。咲耶は上目遣いに、その横顔を見上げた。
(契りの儀って……やっぱ………アレ、なの?)
それが肉体的な契りを意味するのか、果たして別の意味なのか。
咲耶には、はかりかねたが、拒むことは許されないと言われた以上従うしかないだろう。
だが、そうと自らに言い聞かせてみても、泣きたい気分になってきた。
なにがなんだか解らず、流されてしまった咲耶のあずかり知らぬところで、事態はとんでもない方向に進んでいる気がしたからだ。
(もう、いいよ…… 。もういいから、夢なら早く覚めてよーッ!)
ひるがえった女の衣から、なまめかしい白い素足がのぞく。
女は中華服のような、すそから大腿のあたりまでに切れ目の入った黒い着物を身にまとっていた。
「無事に儀式を終えたら、わしの屋敷に遊びに来るとよいぞ」
などと、軽い調子でひらひらと片手を振り、少年は女と連れ立って行った。
「──来い」
言って、ハクコが二人を見送っていた咲耶の手首を強引につかむ。
揺るぎない力に言葉も気力も失ったまま、引きずられるようにして連れて行かれる。
小道を抜けると先ほどから見えていた灯りが、開かれた視界を照らした。
十数人の色とりどりの着物を着た老若男女が、咲耶たちを通すように両脇を固め、その先に何があるかをはっきりと浮かびあがらせる。
──祭壇と、社だ。
祭壇の正面に立った中年の男が、ハクコと共に在る咲耶をすがめ見た。
「来たか。──そなた、名は?」
「…………松元咲耶、です」
「歳は?」
「あの……二十八、です……」
周りの人々が、ざわめいたのが分かった。
だが、中年の男は「そうか」と、ただ相づちをうった。
「では、咲耶。これからそなたは、ハクコと奥にある神殿で、“契りの儀”を交わしてもらう。
初めに申しておくが、そなたにこれを、拒否することは叶わぬ。それは、死を意味する。
よいな?」
(いいかって……断れないって先に言っておいて、なに訊いてんのよ……)
ハクコ同様、狩衣姿の中年男は、続いて心のうちで突っ込む咲耶の横にいるハクコに、目を向ける。
「そして、ハクコ。
尊臣様の命により、この儀が、そなたにとっての最後の機会であることを、もう一度、告げておく。
四度目はない。よいな?」
「……はい」
無表情に、ハクコがうなずく。咲耶は上目遣いに、その横顔を見上げた。
(契りの儀って……やっぱ………アレ、なの?)
それが肉体的な契りを意味するのか、果たして別の意味なのか。
咲耶には、はかりかねたが、拒むことは許されないと言われた以上従うしかないだろう。
だが、そうと自らに言い聞かせてみても、泣きたい気分になってきた。
なにがなんだか解らず、流されてしまった咲耶のあずかり知らぬところで、事態はとんでもない方向に進んでいる気がしたからだ。
(もう、いいよ…… 。もういいから、夢なら早く覚めてよーッ!)