神獣の花嫁~かの者に捧ぐ~
「元の世界に戻らなくても、ってぇコトさ。少なくとも、それなら死なずに済むだろ。違うか?」
間、髪をいれずに犬朗が問い返してくる。咲耶の真意を探ろうとする眼差し。
「……私にとって、それが一番良い選択なのは、解ってる」
茜は、この世界に留まろうとする咲耶に対し、『正しい選択』と評した。
それは、咲耶が人としてする……『人の道において』の正しさだ。
良識をもつ、と、犬貴が表現した茜の見解なら、そうなる。だが──。
「自分のことだけを考えて、ただ死なないで済む方法ってことなら、確かにそうだけど。
私が死なない限り、ハクに新しい“花嫁”が召喚できないってことは……私が自分の都合だけで元の世界に帰ってしまったら、
この“下総ノ国”の人たちは、永遠に白い“神獣”からの恩恵が、受けられなくなるってことなんだよね?
自分の命が危ういからって、自分の責務を全うしない。
それは、人の道にもとる行為で、尊臣と同じ利己主義な考え方になってしまう……」
言って、咲耶は肩をすくめた。
「なんて。それは、カッコつけの表向きの理由。
本当は……このままハクと会えないままで、元の世界になんて、戻れないから。
──ハクに、もう一度、逢いたい」
告げた唇が、震えた。
咲耶の本心から出た言葉は、思いがけないほど咲耶自身を揺さぶった。
「逢いたいの……ハクに。
そのためには、生きて、この世界に留まらなきゃ。だから私は、“神獣ノ里”に、行こうと思う」
まっすぐに犬朗を見つめ返す。
それから咲耶は、キジトラの猫とタヌキ耳の少年に視線を移し、最後にもう一度、赤虎毛の犬を見た。
「お願い。みんなの……力を貸して。
いま言った通り、この世界に留まるって決めたのは、私の身勝手な想いからの結論で……
あなた達からしたら、私に元の世界に帰ってもらったほうが、都合が良いかもしれない。
ハクにとっても……新しい“花嫁”が来てくれたほうが、良いのかも──」
ふいにわきあがってきたハクコを想う気持ちと、咲耶の個人的な想いにより巻き込むことになる者たちへの、後ろめたい気持ちが、咲耶のなかで葛藤する。
言葉を重ねるほどに、揺れ動き、惑う心。
間、髪をいれずに犬朗が問い返してくる。咲耶の真意を探ろうとする眼差し。
「……私にとって、それが一番良い選択なのは、解ってる」
茜は、この世界に留まろうとする咲耶に対し、『正しい選択』と評した。
それは、咲耶が人としてする……『人の道において』の正しさだ。
良識をもつ、と、犬貴が表現した茜の見解なら、そうなる。だが──。
「自分のことだけを考えて、ただ死なないで済む方法ってことなら、確かにそうだけど。
私が死なない限り、ハクに新しい“花嫁”が召喚できないってことは……私が自分の都合だけで元の世界に帰ってしまったら、
この“下総ノ国”の人たちは、永遠に白い“神獣”からの恩恵が、受けられなくなるってことなんだよね?
自分の命が危ういからって、自分の責務を全うしない。
それは、人の道にもとる行為で、尊臣と同じ利己主義な考え方になってしまう……」
言って、咲耶は肩をすくめた。
「なんて。それは、カッコつけの表向きの理由。
本当は……このままハクと会えないままで、元の世界になんて、戻れないから。
──ハクに、もう一度、逢いたい」
告げた唇が、震えた。
咲耶の本心から出た言葉は、思いがけないほど咲耶自身を揺さぶった。
「逢いたいの……ハクに。
そのためには、生きて、この世界に留まらなきゃ。だから私は、“神獣ノ里”に、行こうと思う」
まっすぐに犬朗を見つめ返す。
それから咲耶は、キジトラの猫とタヌキ耳の少年に視線を移し、最後にもう一度、赤虎毛の犬を見た。
「お願い。みんなの……力を貸して。
いま言った通り、この世界に留まるって決めたのは、私の身勝手な想いからの結論で……
あなた達からしたら、私に元の世界に帰ってもらったほうが、都合が良いかもしれない。
ハクにとっても……新しい“花嫁”が来てくれたほうが、良いのかも──」
ふいにわきあがってきたハクコを想う気持ちと、咲耶の個人的な想いにより巻き込むことになる者たちへの、後ろめたい気持ちが、咲耶のなかで葛藤する。
言葉を重ねるほどに、揺れ動き、惑う心。