アシンメトリー
次の日の朝、昨日帰った事を友達にどやされていた。

「かおる、昨日なんで帰ったん?ほんまはかおると矢田先生を仲良くする為に教えてもらいに行こうと思ってたのに」

私は、感情を剥き出しに怒る友達を尻目に言った。

「もう、矢田先生の話はせんといて。あと、余計な事せんといて。」

カバンから何冊かの教科書を揃えて机に強く叩きつけながら、私は友達を睨みつけた。

友達はその顔を見たあとため息をつきながら、それ以上私には何も言い返す事はなく、呆れた顔で自分の席に座った。

自分ができない事をやってのけた友達に私は、嫉妬していた。

そして、もうこれ以上傷つきたくないという気持ちが先行して、本当は素直になれない自分自身に一番嫌気がさしていた。
気づいていながらも、友達の優しさや心配する気持ちもその時の私の胸には響かなかった。

修復しかけていた心にはっていた薄いガラスは粉々に砕け散り、もう形さえも無くなっていた。

もう二度とそのガラスは、元に戻らないまま私とあの人の距離を遠ざけていった。

私はずっと心の中で想像していた。
何度もあの人がいなくなればなんて、存在さえもなくなれば、諦めがつくだろうなんて。
ぶつけようのない感情を解き放つ場所も無くなれば、私の気持ちは思い出に変わっていくって思っていた。
毎日会いたい気持ちと会いたくない気持ちが入り混じった妙な気持ちが交錯した。
遠い場所であの人を見つけるたびに、騒つく気持ちに気付いていたのに、必死に知らない振りをして、目を逸らす努力をした。
その捌け口さえも見つからないまま、私はあの人と二度と気持ちと向き合わずに逃げる日が迫っていた。
もう、あの人の姿さえも視界に入らない平和な未来が待っている。
そう想像した時、以外にも私の気持ちは複雑だったのだ。
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