アシンメトリー
四月、私は高校生になった。
なぜか高校生という響きだけで、少し大人になれた気がした。
ずっと母に懇願して、欲しかった携帯電話も手に入れた。
その頃の私は、ずっと子供だった自分が大人になったような無敵な感覚で浮かれていたように思う。
あの頃とは何も変わってなど居ないのに、少し背伸びをした青い面影を残す大人には遠い子供にすぎなかったのだ。

私が通っていた高校は、私が入学する一年前に共学になったばかりで、男子は私の学年に僅か5人しかおらず、私のクラスはクラスメイト全員が女子だった。
その環境に最初はなれなかったが、一カ月もしないうちに私はその当たり前の環境に慣れていった。
当然、思春期となれば、友達との話題は恋愛の話になる。
でも、男子が少ししかいない環境もあいまって、現在進行形の恋愛ではなく、自然と昔の恋愛話になっていった。

「かおるちゃんってさ、中学の時、好きな人おらんかったん?」

高校で初めてできた友達の愛に昼休憩の時にそう聞かれた。

その質問の時、私の頭に一番に浮かんできたのはあの人だった。

「何人かはおったよ…」

そう遠慮気味に答えた私に愛は笑いながら聞いた。

「何人かおったってことは、付き合ってて別れたって事?」

「ちゃうよ…私の片想いやったし。告白もしてへん人もおるし。」

「そうなんや。どんな人やったん?」

私はその愛の問いかけに言葉を詰まらせた。

ずっと忘れていたあの人の面影が頭の中に浮かびあがる。

目でしか追う事しかできなくて、どんなに近い距離にいても、ずっと近づけないあの人。
最後に出したわずかな勇気でさえ、私は何も言えずにあの人から逃げだした。

「全然カッコよくないけど、私の中では、一番大好きな人やった。」

そう無理に笑顔を作った私を見て、愛が言った。

「かおるちゃんは、今でもその人が好きなんやな。」

「えっ?」

「だって、その人の事話す時のかおるちゃんいつもとちゃうやん。恋してる女の子って感じ。今でも好きならさ、諦めんでえーんちゃうん?」

その時、私はずっと、自分の気持ちに蓋をして何もない振りをして嘘をついていた事を知った。








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