アシンメトリー
高校に入学してから、もう半年が過ぎていた。
私はあの日からずっと、あの人の夢を見る様になっていた。
長い間蓋をしていた気持ちが愛の言葉を聞いて以来溢れ出して、吐き出してしまいたいと私にずっと訴えかけ続けていた。
でも、私にはどうする事も出来ない。
ただ、過ぎていく毎日を消化していく中で、あの人に何も出来ずにもがいている時間を過ごすしかなかった。

そして、いつのまにか、冬を迎え、女の子の1番一年の中でメインイベントの日が迫っていた。

「なあ、かおるちゃん、バレンタイン誰かにあげるん?」

「えっ?私は…」

真っ先にあの人の顔が思い浮かぶ。

すると、愛が笑いながら言った。

「前言うてた片思いの好きな人にあげれば?会う約束して。」

「連絡先知らんし、それに私の事なんか忘れてるし。迷惑やろうし…」

口をついて出る言葉は全部がマイナスな事ばかりで最悪な結果も頭に浮かぶ。
すると、愛が私の背中を全ての気持ちを吹き飛ばす様に思いっきり力強く叩いた。

「かおるちゃん!そんなんどう思うかなんてさ、相手が決める事ちゃうん?やる前から諦めてたらあかんやろ?やってみるまで、結果はわからんで。」

私はその言葉に今まで逃げてきた気持ちの背中を押された気がした。
あの人は、私がずっと隠していた「好き」だという気持ちを知ったらどんな顔をするんだろう。

「とりあえずさ、チョコだけ渡したら?相手の連絡先ゲットできるチャンスやし!協力するし、頑張ろ!」

私は、その言葉に頬杖をついて考えこんだ顔をした。
あの中学の時逃げだした日の苦い記憶を思い出す。
友達は私の気持ちに気づき、あの人と私を仲良くするチャンスをくれたのに、私は逃げ出した。
また、きっと同じ事を繰り返すかもしれない。
マイナスな事しか頭には浮かばなかった。
でも、愛に促されるまま、私はバレンタインに向けて、あの人にチョコレートを買っていた。
愛は好きな人に手作りをすると笑いながら、張り切っていた。
私は、その姿を横目にあの人に嫌われる事ばかりが頭に浮かんでいた。



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