アシンメトリー
さよなら
あの日初めて、あの人が私の為に時間を作ってくれた。
好きな人と初めて2人きりで一緒にいれる時間。
「バレンタインデーのお返しにご飯に行きたい」
無視されると思って駄目元でそういったメールに返信で「15日の土曜日なら空いてるから、その日やったらえーよ。」って返ってきて思わず、やったーって笑いながら叫んだ。
嬉しくて、前日はあまり眠れなかった。
当日近くのショッピングセンターに時間通りに行き、あの人に電話をかけると、「目の前見てみ」と言われると車に荷物を積むあの人がいた。
緊張しすぎて、何を喋ったらいいか分からず、無言で助手席に乗った。
何を話していいか、緊張でずっと考えているうちに寝てなかったせいか車内に流れていた音楽がジャズもあいまって、眠ってしまった。
頭をごつかれて起きたときには、店に着いていた。
店に入るとあの人は新聞を広げて仏頂面でほとんど言葉は交わさず。
私はただ、あの人を見ると何を喋っていいかわからず、顔も見れなかった。
ずっと楽しみにしていた一緒にいる時間、嬉しいはずの私とあの人だけの時間。
食べたご飯の味もよく覚えていない。
帰り道の車内もあの人に話たい事は山のようにあるはずなのに何を話したらいいか分からず、私は寝てるフリをしてあの人に気を遣っていた。
車を降りたあと、去っていくあの人の車を見送りもせずにとぼとぼと帰り路を溜め息をつきながらあるいた。
あの日、一番近くにいたあの人が、あの空間で誰よりも一番遠くに私は感じた。


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