アシンメトリー
結局、友達と約束の日、私は菓子折りを持って地元に来ていた。
駅前で早めに着いて待っていると、友達が手を振りながら近づいてくる。
「やっぱ来たやーん。それ何?」
友達がつくなり、私をからかったあと菓子折りを指さした。
「あー、これ。なんか手ぶらやったら悪いかなって、来る前にこうてきた。」
友達が袋の中を覗くと、ビックリした顔をした。
「これめちゃ高級なやつやん。かおる、あんたやっぱり…気遣うとことか、私の読み当たってたな。」
そう言いながら、バスの停留所に向かう友達に「そんなんちゃうし!」といいながら後を追っていた。
バスで揺られて30分、そこからさらに15分歩いた先にあの人が通う学校があった。
何十年も足を踏み入れていない場所は妙に緊張もあり、それに卒業していない学校というのは新参者という感覚もあった。
下校中の生徒の隙間をぬって、職員室の扉の方に向かっていると、友達が「あれ、矢田先生ちゃう?」と窓の方を見ながら言った。
逆光で私は視界を遮れ、どこにいたのかを友達に確認しようとした時だった。
廊下を乱暴に歩く音、その音に私は視線を向けると眉間にシワを寄せたあの人が歩いていく。
「矢田先生!」
不思議だった。
身体が勝手に動いて久しぶりあの人をそう呼んでいた。
久しぶりに見たあの人は、あの時より少し白髪で背中も丸まっていた。
あのトゲトゲした昔のような自信のオーラもなく、丸くなった印象だった。
そして、私の声にあの人は足を止めて、振り返る。
私の方に近づき、マジマジと顔を見つめて不思議そうな顔をする。
私はあの人が声を一言発する前に、持ってきていた袋を目の前に突き出す。
「お久しぶりです。今は外資系のアパレルショップの店長やってます。篠崎と申します。」
私の突然の自己紹介の言葉にあの人は目を丸くさせて、ビックリしていた。
横にいた友達も何言うてんの?と口パクで私に言っていた。
「え?お前ほんまにあの篠崎か?」
「はい。先生、お久しぶりですね。」
そう言って私ははにかんだように笑う。
「最初誰か解らんかったわ。お前、変わったな。なんであの見た目からそうなったんや。」
あの人は友達には目もくれず私だけを見つめながら満面の笑顔を見せた。
嬉しかった。
ずっと私が見たかったのは、その他大勢やなくて、私だけに向けてくれるあの人の笑顔。
あの時の私には無理だった事が今の私にはできるって思った。
あの人は腕の時計を見ながら私に言った。
「もうちょっと一緒におりたかったんやけど、今から会議やから、なんかこの後するんか?」
「いや、飲みに行こうかなって…」
「そうか…車で送ってやりたかったけど、会議いかなあかんしな。車新しくこうたんやけど、今度ドライブでも行くか?」
そう冗談を言うあの人に私は、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「冗談やがな。ほな、またな。気をつけて帰れよ。これ、ありがとう。」
受け取った袋を私に向けると、笑顔で職員室に戻って行く。
友達が私の腕を掴みながら、目配せをして私に小声で言った。
「かおる、このまま終わってええん?あんたが努力してきたん見せるだけで。ここまで会いにきたのに、それで納得したん?」
私は友達の言葉に何も言わずに去って行くあの人の背中を見つめていた。
その時私は気づいた。
私が超えられなかったのは、あの人なんかじゃなく、あの日の自分自身の気持ちだったんだと。
どんなに大人になって見た目が変わって、みんなにチヤホヤされたとしても、何も変わっていない。
もう少し踏み出して、もっと自分の手を伸ばせば、もしかしたらもっと近くに届くかもしれないのに。
駅前で早めに着いて待っていると、友達が手を振りながら近づいてくる。
「やっぱ来たやーん。それ何?」
友達がつくなり、私をからかったあと菓子折りを指さした。
「あー、これ。なんか手ぶらやったら悪いかなって、来る前にこうてきた。」
友達が袋の中を覗くと、ビックリした顔をした。
「これめちゃ高級なやつやん。かおる、あんたやっぱり…気遣うとことか、私の読み当たってたな。」
そう言いながら、バスの停留所に向かう友達に「そんなんちゃうし!」といいながら後を追っていた。
バスで揺られて30分、そこからさらに15分歩いた先にあの人が通う学校があった。
何十年も足を踏み入れていない場所は妙に緊張もあり、それに卒業していない学校というのは新参者という感覚もあった。
下校中の生徒の隙間をぬって、職員室の扉の方に向かっていると、友達が「あれ、矢田先生ちゃう?」と窓の方を見ながら言った。
逆光で私は視界を遮れ、どこにいたのかを友達に確認しようとした時だった。
廊下を乱暴に歩く音、その音に私は視線を向けると眉間にシワを寄せたあの人が歩いていく。
「矢田先生!」
不思議だった。
身体が勝手に動いて久しぶりあの人をそう呼んでいた。
久しぶりに見たあの人は、あの時より少し白髪で背中も丸まっていた。
あのトゲトゲした昔のような自信のオーラもなく、丸くなった印象だった。
そして、私の声にあの人は足を止めて、振り返る。
私の方に近づき、マジマジと顔を見つめて不思議そうな顔をする。
私はあの人が声を一言発する前に、持ってきていた袋を目の前に突き出す。
「お久しぶりです。今は外資系のアパレルショップの店長やってます。篠崎と申します。」
私の突然の自己紹介の言葉にあの人は目を丸くさせて、ビックリしていた。
横にいた友達も何言うてんの?と口パクで私に言っていた。
「え?お前ほんまにあの篠崎か?」
「はい。先生、お久しぶりですね。」
そう言って私ははにかんだように笑う。
「最初誰か解らんかったわ。お前、変わったな。なんであの見た目からそうなったんや。」
あの人は友達には目もくれず私だけを見つめながら満面の笑顔を見せた。
嬉しかった。
ずっと私が見たかったのは、その他大勢やなくて、私だけに向けてくれるあの人の笑顔。
あの時の私には無理だった事が今の私にはできるって思った。
あの人は腕の時計を見ながら私に言った。
「もうちょっと一緒におりたかったんやけど、今から会議やから、なんかこの後するんか?」
「いや、飲みに行こうかなって…」
「そうか…車で送ってやりたかったけど、会議いかなあかんしな。車新しくこうたんやけど、今度ドライブでも行くか?」
そう冗談を言うあの人に私は、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「冗談やがな。ほな、またな。気をつけて帰れよ。これ、ありがとう。」
受け取った袋を私に向けると、笑顔で職員室に戻って行く。
友達が私の腕を掴みながら、目配せをして私に小声で言った。
「かおる、このまま終わってええん?あんたが努力してきたん見せるだけで。ここまで会いにきたのに、それで納得したん?」
私は友達の言葉に何も言わずに去って行くあの人の背中を見つめていた。
その時私は気づいた。
私が超えられなかったのは、あの人なんかじゃなく、あの日の自分自身の気持ちだったんだと。
どんなに大人になって見た目が変わって、みんなにチヤホヤされたとしても、何も変わっていない。
もう少し踏み出して、もっと自分の手を伸ばせば、もしかしたらもっと近くに届くかもしれないのに。