アシンメトリー
諦め
そのまま何もせず、何も起きないまま、時が過ぎていった。
相手は教師でましてや歳が離れていて、結婚もしているという事は知っていた。
私にはどうする事も出来ない事は、大人ではない子供だとしても知っていた。
ある日、下校前に配られた三者面談のプリント。
私はそれを見つめながら、ため息をつく。
帰宅して、直ぐにプリントを乱暴にリビングのテーブルに置いた。
そして、そのまま自分の部屋に足早に逃げ込み、布団に潜り込む。
私は複雑だった。
好きだという気持ちを自覚してから、あの人とは何も会話などしていない。
それに加えて、三者面談など私にとっては最悪のシュチュエーションで母は私とは真逆だった。
おしゃべりで余計な事をあの人に話しかねない。
「ちょっとー!かおる!このプリントこんなところに置いてたら、お母さん分からへんやろ!ちゃんと大事なもんは貼っといてって言ってるやろ!」
リビングから母が怒鳴る声が聞こえてきた。
私は布団に更に深く潜り込んで聞こえないふりをした。
そして、とうとうその日を迎えたのだ。
教室のドアの前で偶然に友達に会い、友達の母親と私の母が軽く会釈をして、談笑をしていた。
しばらくすると、教室のドアが開いて、私の前の予定時間だったクラスメイトと保護者が出てくる。
そして、あの人がドアから顔を出すと、「どうぞ。お入りください。」と言って、こっちを見る。
母は私に「ちゃんとしなさい。」と目配せしながら、先頭を切って教室に入った。
私はため息をつきながら、母の後をついていき教室に入った。
下を向きながら、しばらくあの人と母が2人でする会話を耳から聞き流していた。
私には関係ないっていう態度だったかもしれない。
あの人の笑い声と母の愛想笑い。
顔を上げて、その様子を見て同じ空間に自分が溶け込んでいき、波長を合わせる自分の姿を想像しただけでとてつもない嫌悪感が襲った。
何も喋らない私を気にしてか、あの人が母に言った。
「いや、僕、陸上部の顧問なんですけど、砲丸投げやる子がいないから、篠崎さんも誘ったんですけどね。」
照れたように後頭部を左手にそえて、愛想笑いをするあの人がいた。
母はその言葉に私に目をやり、言った。
「そーなんですか?あんた、身体がっしりしてるんやからやったらええやないの?」
私は母とあの人の言葉に下唇をぐっと噛み締めた。
早くこの場から逃げたしたい気持ちでいっぱいだった。
馬鹿みたいだ。
笑い者にされて、恥をかいてるだけだ。
「じゃ、そろそろ…」
あの人が時計を見ながら立ち上がると、母より私は足早に立ち上がり、私はあの人に何も言わないまま教室を出て行こうとした。
母が深く会釈したあと、背をむけている私に言った。
「かおる!先生にちゃんと挨拶しなさい!」
私はその言葉に半分だけ身体をむけて、目を向けずに一言言った。
「先生、さようなら…。」
あの人の顔も見ずに廊下に出ていく。
「こら!かおる!先生、すみません。あの子、本当に変わってるんで。」
母があの人に謝る声が私の胸を一層締め付けた。
私は、きっと人とは違う人を好きなんだって、子供の時から感じていた。
それは、二歳の時、私の結婚する人は父だってずっと信じていた事。
父が大好きでたまらなくて、一緒にいる母にヤキモチを妬いた記憶。
今思えば、 母の目に移る私はこの時から代わり者だったのかもしれない。
幼稚園の時、女の子の友達に馴染めずに、ずっと男の子と遊んでいた私も。
母の頭に掠めた色々な不安要素は、ただ心配からくる気持ちだってわかっていた。
でも、あの時の私には理解できなかった。
ただ私の言ってほしくない秘密を面白可笑しく話す大人も母に対しての意味のない怒りも。
あの人の愛想笑いも全部が嫌いだった。
私を追いかける母に私は言った。
「余計な事言わんといて!」
「なんも言ってないやんか。」
「うるさい!うざい。」
私は歩くスピードを上げて必死に母が追いつけない様にした。
多分、目に溜まった涙を必死に隠そうとしていたから。
相手は教師でましてや歳が離れていて、結婚もしているという事は知っていた。
私にはどうする事も出来ない事は、大人ではない子供だとしても知っていた。
ある日、下校前に配られた三者面談のプリント。
私はそれを見つめながら、ため息をつく。
帰宅して、直ぐにプリントを乱暴にリビングのテーブルに置いた。
そして、そのまま自分の部屋に足早に逃げ込み、布団に潜り込む。
私は複雑だった。
好きだという気持ちを自覚してから、あの人とは何も会話などしていない。
それに加えて、三者面談など私にとっては最悪のシュチュエーションで母は私とは真逆だった。
おしゃべりで余計な事をあの人に話しかねない。
「ちょっとー!かおる!このプリントこんなところに置いてたら、お母さん分からへんやろ!ちゃんと大事なもんは貼っといてって言ってるやろ!」
リビングから母が怒鳴る声が聞こえてきた。
私は布団に更に深く潜り込んで聞こえないふりをした。
そして、とうとうその日を迎えたのだ。
教室のドアの前で偶然に友達に会い、友達の母親と私の母が軽く会釈をして、談笑をしていた。
しばらくすると、教室のドアが開いて、私の前の予定時間だったクラスメイトと保護者が出てくる。
そして、あの人がドアから顔を出すと、「どうぞ。お入りください。」と言って、こっちを見る。
母は私に「ちゃんとしなさい。」と目配せしながら、先頭を切って教室に入った。
私はため息をつきながら、母の後をついていき教室に入った。
下を向きながら、しばらくあの人と母が2人でする会話を耳から聞き流していた。
私には関係ないっていう態度だったかもしれない。
あの人の笑い声と母の愛想笑い。
顔を上げて、その様子を見て同じ空間に自分が溶け込んでいき、波長を合わせる自分の姿を想像しただけでとてつもない嫌悪感が襲った。
何も喋らない私を気にしてか、あの人が母に言った。
「いや、僕、陸上部の顧問なんですけど、砲丸投げやる子がいないから、篠崎さんも誘ったんですけどね。」
照れたように後頭部を左手にそえて、愛想笑いをするあの人がいた。
母はその言葉に私に目をやり、言った。
「そーなんですか?あんた、身体がっしりしてるんやからやったらええやないの?」
私は母とあの人の言葉に下唇をぐっと噛み締めた。
早くこの場から逃げたしたい気持ちでいっぱいだった。
馬鹿みたいだ。
笑い者にされて、恥をかいてるだけだ。
「じゃ、そろそろ…」
あの人が時計を見ながら立ち上がると、母より私は足早に立ち上がり、私はあの人に何も言わないまま教室を出て行こうとした。
母が深く会釈したあと、背をむけている私に言った。
「かおる!先生にちゃんと挨拶しなさい!」
私はその言葉に半分だけ身体をむけて、目を向けずに一言言った。
「先生、さようなら…。」
あの人の顔も見ずに廊下に出ていく。
「こら!かおる!先生、すみません。あの子、本当に変わってるんで。」
母があの人に謝る声が私の胸を一層締め付けた。
私は、きっと人とは違う人を好きなんだって、子供の時から感じていた。
それは、二歳の時、私の結婚する人は父だってずっと信じていた事。
父が大好きでたまらなくて、一緒にいる母にヤキモチを妬いた記憶。
今思えば、 母の目に移る私はこの時から代わり者だったのかもしれない。
幼稚園の時、女の子の友達に馴染めずに、ずっと男の子と遊んでいた私も。
母の頭に掠めた色々な不安要素は、ただ心配からくる気持ちだってわかっていた。
でも、あの時の私には理解できなかった。
ただ私の言ってほしくない秘密を面白可笑しく話す大人も母に対しての意味のない怒りも。
あの人の愛想笑いも全部が嫌いだった。
私を追いかける母に私は言った。
「余計な事言わんといて!」
「なんも言ってないやんか。」
「うるさい!うざい。」
私は歩くスピードを上げて必死に母が追いつけない様にした。
多分、目に溜まった涙を必死に隠そうとしていたから。