アシンメトリー
魔性の日
一年の終業式を終え、春休みを終えて私は2年生になった。
クラス替えで私はあの人が担任のクラスから外れた。
もう、前のように毎日四六時中あの人と顔を合わせなくても済むのだと思うと、自然と心がほっとした。
別の事に意識がいき、あの人の事で頭を悩ませる時間は以前よりはなくなった。
でも、全く顔を合わす事がなくなったという訳ではない。
同じ階の三つ先の教室があの人のクラスだった。
朝のホームルームで廊下をコツコツと足音がする度に私は廊下に目をやってしまう自分がいた。
それに運悪く、担任じゃなくなっても、あの人は私のクラスの科目を受け持っていた。
いつも夜に、次の日の授業の教科書を入れ、時間割をチェックする度にあの人と明日顔を合わすのかと考えると、ため息をつく自分を見るのが気が重かった。
辛い気持ちを隠そうとすると、必ずあの人が私の前を通りすぎた。
何もない振りをして過ごし、周りに自然に溶け込んでいく事で、自分のあの人への想いを誰にもバレない様に隠し続けていた。
でも、ある日休み時間に友達が、ふと何気なく私に言った。
「ってかさ、かおる、いつも矢田先生の授業の前、元気なくない?」
頭の中でどう答えようか考えるために、言葉を詰まらせてしまった。
黙りこむ私と沈黙が長く流れる事で友達が、不思議そうな顔で私を見つめる。
もう全ての気持ちを誰かに吐き出してしまいたい。
そんな考えが私の頭をかすめた。
すると、友達が笑いながら言った。
「もしかして、かおるってさ矢田先生の事、苦手なん?なんか、ずっと授業中も怒ってる顔してて、怖いもんな。」
「やんなー、みんななんも言わんから私だけや思っとったわ。」
そう言いながら、私は友達に同調して無理にあからさまに笑顔を作った。
友達にとっては、ただの話題の一つでしかない。
もうちょっとで、本当の自分の気持ちを話してしまいそうになった事に酷く後悔した。
そして、本当の話しを切り出さなくてよかったと、内心、私はほっとしたのだ。
「次、矢田先生の授業やけど、頑張りや。」
休憩が終わりの予鈴が聴こえて、友達が足早に席にかえっていく。
しばらくすると、ドアの音と共に仏頂面のあの人が入ってくる。
張り詰めた空気と静寂。
「じゃ今日は教科書の23ページ開け。」
黒板のチョークの音とあの人の低い声、後ろ姿。
私は、胸の高鳴りを決して誰にも気づかれないように抑えていた。
誰に見られても、あの人をずっと見つめていても違和感のない唯一の時間。
その時間が、私の心の中で粉々に砕けたガラスの破片を一つづつ、元の場所に戻していく。
そのガラスはいつ割れてもおかしくないくらい脆いってわかっていた。
そして、また、心の迷いと共に粉々に砕けちってしまうって事も。
「じゃ、この問題各自で時間やるから考えてみろ。」
席を順に周るあの人が背中越しに気配を感じてわかった。
そう気づくと、私の胸は爆発しそうなくらい脈打つ。
あの人が数センチの距離まで近づき、私のノートを覗き込む。
私は平静を装うのに必死だった。
その後、早足で教壇に戻っていく。
「じゃ、そやな…この答え答えてもらおかな…じゃあ、首席番号1番の有本。」
私は、その問題の答えなんかどうでも良かった。
生徒が答えた瞬間に、あの人の仏頂面が一瞬笑顔に変わる。
その瞬間に私は胸が高鳴る。
そして、チャイムが鳴り、その時間は終わる。
そして、その時間が終わる度に、やっぱり、私はあの人が好きなんだって確信する。
あの人が私の本当の王子様じゃなかったとしても、私は、あの人が好きだった。
クラス替えで私はあの人が担任のクラスから外れた。
もう、前のように毎日四六時中あの人と顔を合わせなくても済むのだと思うと、自然と心がほっとした。
別の事に意識がいき、あの人の事で頭を悩ませる時間は以前よりはなくなった。
でも、全く顔を合わす事がなくなったという訳ではない。
同じ階の三つ先の教室があの人のクラスだった。
朝のホームルームで廊下をコツコツと足音がする度に私は廊下に目をやってしまう自分がいた。
それに運悪く、担任じゃなくなっても、あの人は私のクラスの科目を受け持っていた。
いつも夜に、次の日の授業の教科書を入れ、時間割をチェックする度にあの人と明日顔を合わすのかと考えると、ため息をつく自分を見るのが気が重かった。
辛い気持ちを隠そうとすると、必ずあの人が私の前を通りすぎた。
何もない振りをして過ごし、周りに自然に溶け込んでいく事で、自分のあの人への想いを誰にもバレない様に隠し続けていた。
でも、ある日休み時間に友達が、ふと何気なく私に言った。
「ってかさ、かおる、いつも矢田先生の授業の前、元気なくない?」
頭の中でどう答えようか考えるために、言葉を詰まらせてしまった。
黙りこむ私と沈黙が長く流れる事で友達が、不思議そうな顔で私を見つめる。
もう全ての気持ちを誰かに吐き出してしまいたい。
そんな考えが私の頭をかすめた。
すると、友達が笑いながら言った。
「もしかして、かおるってさ矢田先生の事、苦手なん?なんか、ずっと授業中も怒ってる顔してて、怖いもんな。」
「やんなー、みんななんも言わんから私だけや思っとったわ。」
そう言いながら、私は友達に同調して無理にあからさまに笑顔を作った。
友達にとっては、ただの話題の一つでしかない。
もうちょっとで、本当の自分の気持ちを話してしまいそうになった事に酷く後悔した。
そして、本当の話しを切り出さなくてよかったと、内心、私はほっとしたのだ。
「次、矢田先生の授業やけど、頑張りや。」
休憩が終わりの予鈴が聴こえて、友達が足早に席にかえっていく。
しばらくすると、ドアの音と共に仏頂面のあの人が入ってくる。
張り詰めた空気と静寂。
「じゃ今日は教科書の23ページ開け。」
黒板のチョークの音とあの人の低い声、後ろ姿。
私は、胸の高鳴りを決して誰にも気づかれないように抑えていた。
誰に見られても、あの人をずっと見つめていても違和感のない唯一の時間。
その時間が、私の心の中で粉々に砕けたガラスの破片を一つづつ、元の場所に戻していく。
そのガラスはいつ割れてもおかしくないくらい脆いってわかっていた。
そして、また、心の迷いと共に粉々に砕けちってしまうって事も。
「じゃ、この問題各自で時間やるから考えてみろ。」
席を順に周るあの人が背中越しに気配を感じてわかった。
そう気づくと、私の胸は爆発しそうなくらい脈打つ。
あの人が数センチの距離まで近づき、私のノートを覗き込む。
私は平静を装うのに必死だった。
その後、早足で教壇に戻っていく。
「じゃ、そやな…この答え答えてもらおかな…じゃあ、首席番号1番の有本。」
私は、その問題の答えなんかどうでも良かった。
生徒が答えた瞬間に、あの人の仏頂面が一瞬笑顔に変わる。
その瞬間に私は胸が高鳴る。
そして、チャイムが鳴り、その時間は終わる。
そして、その時間が終わる度に、やっぱり、私はあの人が好きなんだって確信する。
あの人が私の本当の王子様じゃなかったとしても、私は、あの人が好きだった。