アシンメトリー
相変わらず、私の好きな人は田中君だという嘘を友達は信じていた。

そんなある日、次の移動授業の時、廊下で友達が田中君の情報を一生懸命に話していた時、廊下で前から別のクラスの授業をおえたあの人とすれ違う。

相変わらずの仏頂面。

そして早足。

私はドキドキしながらすれ違う。

友達の話をそっちのけで、あの人に視線を奪われて立ち止まってしまう。

「かおる?どうしたん?」

友達の声に私はふと我に返り「なんでもない」と言った。

「矢田先生ー♪」

そう言って、教室のドアから勢いよく駆け出し、私の前を通り過ぎていく女の子が、足早に歩くあの人を大声で呼び止めた。

「げっ!久保やないか!なんや。おまえは。いつもまとわりつくな!」

あの人の腕を掴み、笑っているさっきの女の子はあの人のクラスの久保さん。

久保さんは私とは幼稚園からずっと一緒で、昔から良く知っていた。
人見知りしなくて、誰とでも仲良くなれる子だった。
それに、思った事をすぐストレートに表現する性格だって事も知っていた。

嫌そうな顔をしながらも、あの人は腕を掴む手を振り払う素ぶりはない。

「先生、一緒に職員室までいっていいですか?」


「なんでお前がついてくるねん!あのな、お前にかまってるほど暇やないねん。」

「先生が好きやからついていくんやん。あかん?」

「うるさい。うるさい!お前は早よどっかいけ。ブス。ついてくんな。」

そう言って、あの人は照れた様に真っ赤な顔をして笑いながら、腕を振り払うが久保さんはそれでもあの人の後ろをついて行った。

その2人を見ていた私の心臓はいつもより早く動く。

「久保さんと矢田、あの2人仲良いよなぁー。なんか、付き合ってるみたい。かおるもそう思わん?」

そう言って冗談まじりに笑いながら、横にいた私を見た友達の顔から笑いが消える。

「ちょっとかおる、どないしたん?」

きっと、友達が見た私の横顔は今にも泣きそうだったのだろう。

気持ちに気づかれてはいけないと思い、咄嗟に下を向いた。

「なんでもない…ちょっと気分悪くなっただけやから。トイレ行ってから、教室行くから先、行っといて。」

私は、一刻も早くその場所から立ち去りたかった。
だから冷たく、イライラした口調でそう吐き捨てた。

トイレの方向に足を向けた時、友達が言った。

「かおる、ちょっと待って。急におかしいやん。なんかあったんやったら、言うて。一緒に考えるやん。」

私はその言葉に今まで我慢していた気持ちが一気に解放されたみたいに涙が溢れて、止まらなかった。

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