あの夏のはなし。
歩けども歩けども田んぼの広がる一面緑色の景色。
頭が痛くなりそうなほど騒がしい蝉の声。
じりじりと照りつける太陽は、あたしの皮膚を焦がそうと必死になっている。
そんな状況で、Tシャツに短パンつっかけサンダルというなんとも素敵な軽装備で家を飛び出してきたあたしは、なんの計画もなく家を飛び出したことを既に後悔し始めていた。

「あっつ…」

誰もいないのをいいことに、ついそんな声も漏れる。
口に出すと更に暑さが増すような気がするのは一体どうしてなんだろう。
むわっとしたぬるい風が体にぶつかってくる。
ひとまず陰のあるところへ行きたい。
このままではあたしが蒸発してしまう。

確かこの先には山があったはずだ、と幼い頃に従兄弟たちと遊び回った記憶を頼りに歩く。
親戚の中で一番末っ子だったあたしは、兄ちゃんたちに遊んで欲しくていつもついてまわってたっけ。
今はもうみんな社会人になって、それぞれそれなりに忙しい日々を送っている。
じいちゃんちにみんなで集まることもなくなってしまった。

山になら木があるから日陰があるはずだし、奥の方には川もあるからきっと涼しい。
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