彼氏の上手なつくりか譚





それからも、下村くんはいろんな本を紹介してくれた。


カフカの「変身」、フィツ・ジェラルドの「ベンジャミンバトン」、ヘミングウェイの「老人と海」……。


下村くんの変なスイッチを入れてしまったのか、海外小説ばかり勧められる。


そのどれもがイマイチピンとこない。プライベートでも読みたいと思えない。


その理由は、やっぱり知らない人が書いた、知らない本だからじゃないかと思う。


これが例えば、国語の教科書に載っていたとか、マンガ版の伝記で読んだことがあるとか、そういう人が書いた本の方が、どこか信頼度……に似たものがあって、安心する。


カフカって誰よ? フィツ・ジェラルドって髭生えてる? ヘミングウェイって男なの? 女なの?


知らない。知らないのだ。知らないから、読もうと思えない。


つまり、知っている作家なら読めるんじゃないかということ。


私が……知っている……純文学の作家……。


「下村くん、これなんかどうかな?」


私が手に取った1冊。それは、あまりにも有名な作家。




< 156 / 525 >

この作品をシェア

pagetop