彼氏の上手なつくりか譚
それからも、下村くんはいろんな本を紹介してくれた。
カフカの「変身」、フィツ・ジェラルドの「ベンジャミンバトン」、ヘミングウェイの「老人と海」……。
下村くんの変なスイッチを入れてしまったのか、海外小説ばかり勧められる。
そのどれもがイマイチピンとこない。プライベートでも読みたいと思えない。
その理由は、やっぱり知らない人が書いた、知らない本だからじゃないかと思う。
これが例えば、国語の教科書に載っていたとか、マンガ版の伝記で読んだことがあるとか、そういう人が書いた本の方が、どこか信頼度……に似たものがあって、安心する。
カフカって誰よ? フィツ・ジェラルドって髭生えてる? ヘミングウェイって男なの? 女なの?
知らない。知らないのだ。知らないから、読もうと思えない。
つまり、知っている作家なら読めるんじゃないかということ。
私が……知っている……純文学の作家……。
「下村くん、これなんかどうかな?」
私が手に取った1冊。それは、あまりにも有名な作家。