彼氏の上手なつくりか譚





「それともこの後、予定あったりする?」


「いや、それはないけど……」


「けど」の後には、大抵悪いことが付く。


それを知ってか、下村くんも、


「そうだよね。急だったよね。ごめん」


と謝ってきた。


そんなはずじゃなかったのに、気まずい空気が流れたまま、電車に乗った。


お互いに会話はなく、下村くんは疲れ切ったサラリーマンのような目で中吊り広告を眺めている。


悪いことをした。でも、今更取り返しはつかない。


せっかく、人生でたった一度しか訪れない今日という日を、私のためなんかに使ってくれたのに……。


私は恩を仇で返してしまった。


自分さえよければそれでいい。そんな考えの女になってしまった。




< 161 / 525 >

この作品をシェア

pagetop