彼氏の上手なつくりか譚
中越くんのアイコンをタップして、「無料通話」のボタンを押した。
呼び出し音が鳴って、それが消えて、
「もし、もし……?」
中越くんのぎこちない、低い声が聞こえた。
「あの、山田です! 山田理沙です!」
心臓がバクバクしているのが耳で聞こえる。
お腹の音みたいに、中越くんにも聞こえそうなくらい、大きく、はっきりと。
「こ、こんばんは!」
声が裏返った。慌てて、咳を二度する。
「こ、こんばんは……」
中越くんの方は、バクバクってよりも、戸惑っているようで、やっぱりぎこちない。
「あの……ですね……私、中越くんにごめんなさい! したいわけでして……えっと、野球のことで、中越くんは苦渋の決断をされたわけで……それは……英断であったと! あの、すっごいし、すっごいことだと思いますし、尊敬します! 私にはできないことだから、すごいです! すごいから、ごめんなさいっておっしゃいますか、その……気持ちとか配慮とか、足りなかったと反省し、以後このようなことがないよう、私は誠心誠意……」