彼氏の上手なつくりか譚





「で、これ食うのか?」


中越くんのその一言で、みんな黙った。


確かに私たちは食べるために釣った。


イワナだって食べられる。


食べられるけど、にしては小さすぎる……。


それに、小さいからだろうか、なんだかこの子を食べるのは、可哀そうな気がしてきた。


「……逃がすか」


中越くんがそう言って、上川くんが「そうだな」とバケツを持った。


「来年また来て、大きくなったら食べるとしよう」


そう上川くんが人間のエゴのようなお別れの言葉を言って、バケツを水面につけてやると、小さなイワナは川に戻って行った。




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