彼氏の上手なつくりか譚
急に下村くんが立ち止まって、「しーっ」と言った。
指さす方を見ると、1本の木に何か黒いものが止まっていた。
下村くんが足音を立てないように、静かに近づき、そして、網を被せた。
「お! いたか?」
上川くんと中越くんが振り返った。真奈が後退った。
「うん! ヒラタだ! ヒラタクワガタだよ!」
「おおー! 下村、お前すげーじゃん!」
「よし、下村。今虫かご持っていくからな! 離すなよ!」
ヒラタクワガタを手に持って、嬉しそうな、照れくさそうな笑顔の下村くん。
そんな顔しないでほしい。あんなこと言われて、あんな大事なことを黙ってて、それでも言い訳しないで、そんな顔で笑われたら……。
「ねえ、真奈」
「……皆まで言うな。言いたいことはわかる」
「いや、そうじゃなくてね、私……