彼氏の上手なつくりか譚





スマホは諦めて、ベランダに出てみた。


まだバーベキューの匂いが残るベランダは、風が心地よく吹いていて、木々のざわめきが月光の下、優しく聞こえる。


この音を聞いているだけで、何だか心が軽くなって、癒されていく。


今ここに紙とペンがあれば、高尚な文章が書けそうだ。


それこそ純文学みたいに、〇〇性とか、〇〇論とかみたいに、難しい言葉を使った文章が。


小説家になるのもいいかなって思う。そうすれば、下村くんと同じ夢を持って、一緒になって頑張れるような気がする。


でも、逆に支える側になるのもいいかなって思う。


そうだ、カフェでも開こう。


私がカフェでコーヒーを淹れ、下村くんはカウンターの隅で執筆活動に勤しむ。


コーヒーの香り、ジャズの音、目の前には愛している人、愛してくれる人……。


そんな毎日だと幸せだろうなと思う。


でも、真奈は言った。


今回できた彼氏とは結婚までいかない、と。




< 277 / 525 >

この作品をシェア

pagetop