彼氏の上手なつくりか譚
「じゃあ、さっさとやっちゃおっか」
手をパンッと叩いてそう言うと、上川くんはカバンから宿題と筆記用具を出して、足の短い、子供用テーブルの上に置いた。
「とりあえず、約束通り英語のワークは終わらせた。あとは、数学のプリントと……」
「問題は読書感想文だね……上川くん、本は読んだの?」
「一応、これ」
上川くんがカバンから出した本は、谷崎潤一郎の「春琴抄」だった。
「あ、これなら私も読んだことあるけど、どうしよっか?」
「うーん、ならオレ、読書感想文やるから、数学のプリントは任せていい?」
ありがたいと思った。私は読書感想文が嫌いだ。
でも、よくよく考えたら、私たち高3にとって、おそらくこれが最後の読書感想文じゃないかと思った。
そう思うと、もうちょっと頑張って書けばよかったかなと少しだけ後悔。でも、わざわざ書き直すなんてこともしたくない。
これはこれでいい。今は、数学のプリントの答えを写す。それだけ。