彼氏の上手なつくりか譚
上川くんは走った。人だかりをかき分け、前だけ見て走った。
これでいい。これで、いい。
「山田さーん! お、いたいた!」
金魚を掲げた武士が小走りで駆け寄ってきた。
「なんか上川が川上に『大事な話がある』とかで、引っ張って行っちまったんだけど、何かあったのか?」
そこまで見てて、気づかない鈍感なんか、もう知らん。
「これでいいんです。いや、これがいいんです」
「はあ?」
よく考えたら、真奈には彼氏がいない。
彼氏がいない人が彼氏の上手な作り方なんか、教えられるわけがないんだ。
だから、これは投資。私のしたことなんか、大したことじゃないけど、誰かを幸せにする一歩を後押しした。
この一歩は、きっと私にいい形で返ってくるはずだ。