彼氏の上手なつくりか譚





中越慎太郎くんと付き合っていた。


早希さんはそう言った。


中越慎太郎くんとは、言わずと知れたあの中越くんで、まさか間違い電話の相手が中越くんの元カノだったなんて、いくらなんでも世間は狭すぎる。


そもそも、間違い電話の相手がこの近くに住んでいたってだけでも十分狭い。


まるで、誰かが仕組んだみたいだ。


その誰かに、私は心当たりがあるけど、それを問い詰めるのは、後だ。


今日の目的はそれじゃない。


「……それで、中越くんとは話せましたか?」


早希さんにそう聞かれ、私は黙って首を横に振った。


ファミレスでの一件の翌日から、何度も中越くんに早希さんの伝言を伝える機会を窺っていたけど、タイミングが悪く、結局、今の今まで伝えられなかった。


……いや、それは嘘だ。


本当はあった。なくても無理矢理作ることや、中越くんにLINEする方法もあった。


できなかったんじゃなくて、私はしなかったんだ。




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