彼氏の上手なつくりか譚





「キミは、オレが無邪気に野球をしてる姿が好きだと言ってくれた。でもオレは、肘を壊して、野球ができなくなった。野球ができないオレなんて、何の価値もないただの男だ。ただの年下のガキだ。そんなオレにはキミと付き合っている資格はない。そう思った。だから、好きな人ができたなんていうのは嘘だ。すまない」


中越くんが話している間、早希さんはじっと中越くんの目を見て、何も言わずに聞くこと、受け止めることに集中しているようだった。


そして、一通り聞き終えて、早希さんは静かに口を開いた。


「私は野球少年がすきなわけじゃありません!」しかし、その声は力強くもあった。


「確かに野球をしてる慎太郎くんは素敵でした。まるで少年みたいにキラキラしてて。でも、私が本当に好きなのは、中越慎太郎という人間なんです。そこに私は惚れたんです。中越慎太郎から野球をとっても、私の惚れた中越慎太郎という人間までなくなってしまうわけじゃないでしょう。だから、そんなのはただの言い訳に過ぎません」


そして、早希さんは一つ息をついて続けた。




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