彼氏の上手なつくりか譚
「やっと来たか……」
電話の向こうで、「もしもし」でもなく、「はい、天野です」でもなく、「やっと来たか……」というカイエンくんの声。
「もしもし、山田です。こんばんは……」
震えた声で、そう言ったけど、返事が返ってこない。
「あのー……」と言ったところで、やっとため息が聞こえた。
「なんだそれは」その声は明らかに呆れたようなトーンだった。
「普通過ぎる。こんばんはなんて挨拶。面白くもなんともない。そもそもこんばんはって、今の晩と書いて、『今晩は』だろう? つまり、主語さ。僕は、私はと同じようなね。その下に続く言葉がないと、こんばんはは成立しないんじゃないか?」
今までそんなこと、考えたこともなかったけど、言われてみればそうだ。
「ホント、そうですね……カイエンくんならどういう言葉をつけますか?」
「うーん、そうだな……」少しの間が空いた。