彼氏の上手なつくりか譚
4つのクリップをブレザーのポケットに入れ、ついでに、両手をポケットに入れながら教室に帰る途中の廊下で、カイエンくんとバッタリ会った。
カイエンくんは、両手に茶色い紙袋を持っていて、「なんでオレがこんなことを……」とブツブツ言いながら歩いていた。
私に気づいたカイエンくんは、右の紙袋を顔の高さまで上げた。
「理沙も残って準備?」
「うん。クリップ借りた帰り」
「そっか」
そこで会話は途絶えた。
カイエンくんは私に何も言わずに通り過ぎて行った。
それは、何もなかった木曜日のように、サラッと、風が通り過ぎるようで、私もまあこんなものかと思いながら、再びポケットに手を入れ、歩いた。