彼氏の上手なつくりか譚
「すごいタイトル……でも、書き出しは興味をそそられるね」
「なんか照れるね……」と言って、下村くんは頭を掻いた。
「こうして自分が書いた小説を誰かに見られるって、まるで、頭の中を覗き込まれている気分になるよ。でもね、これが不思議と嫌じゃないんだ」
「私だったら、恥ずかしいかも……」
「初めは僕もそうだったよ。でも、ある時、気づいたんだ。小説は誰かに読んでもらって、初めて小説になるんだって。読まれない小説はただ文字を並べただけなんだってね。そう思うと、意地でも読んでもらいたくなってさ。読んでもらうためにはどうすればいいかとか、それを読んだ人がどんな顔になるかとか考えたり、想像したりするようになった。そしたら、書くのが何だか楽しくなって、ああ、こうやって一生過ごせたらどんなに幸せだろうってそう思うようになったんだ」