彼氏の上手なつくりか譚
そう語る下村くんの横顔は、すごく生き生きしてて、ああ、この人は本当に小説を書くのが好きなんだなって思う。
同時に、私にも何かそういうものがあればいいのにって嫉妬してしまう。
「ねえ、山田さん。山田さんも本読むの好きでしょ? やりたいことがないんだったら、とりあえず自分で小説を書いてみたらいいんじゃないかな?」
「わ、私が小説? 無理だよ。私には下村くんみたいに、文才ないし……」
「文才なんか必要ないよ。ひらがなと少しの漢字が書ければ、誰だって書ける。いや、山田さんにしか書けない小説がきっとあるはずだよ」
私にしか、書けない小説……。
「小説家になるつもりで書かなくていいから、主人公に自分を自己陶酔して書いてみたらどうかな? 文字にすると、自ずと自分が今、どうしたいのかとか見えてくると思うんだ。もちろん、それがきっかけで小説家を目指したいって言ってくれると、僕としては嬉しいんだけどね」