愛してるからこそ手放す恋もある
病院からタクシーに乗り、途中マンション近くのスーパーに寄り、買い物して帰ってきた。

「しかし、見事に野菜ばかりだな?」

まさかスーパーの中まで小野田さんがついてくるとは思わなかった。
でもそのお陰で、小野田さんがピーマンが嫌いだと言うことが分かった。

「え?お肉や魚も買いましたよ?それからピーマンも!」

ぎょっとする小野田さんの顔がおかしい。

今度はピーマンを使ってどう苛めてやろう。ウフフ
あれ?私ってこんなに“ドS”だったかしら?

基本私の料理は野菜が多い。肉や魚が嫌いってわけではない。ただ自分なりに健康を考えての事だ。

マンション前でタクシーを降り、マンション内へと歩き始めた時、

「梨華?」

「……」

聞き覚えのある声に足が止まった。

振り返らなくても分かる。

なぜここに居るの?
消した筈の過去が私の中に蘇る。

こんなにも…私の中に貴方は居座っていたの?

恋い焦がれた人の声は、そう簡単に忘れるわけも無く。それでも忘れたと思っていた自分が可笑しくなる。

「梨華、あれ知り合いか?」

「さぁ?人違いじゃないですか?」

名前が一緒で、明らかに私にたいして声かけているのに、それを人違いって…説得力がまるで無い。
わかっていて私は敢えてそう言った。

「早く行きましょう?」

「梨華!梨華待ってくれ!」

私は小野田さんの背中を押すようにマンションのロビーへと入った。




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