愛してるからこそ手放す恋もある

そんな小野田さんの秘書になって仕事の多さたら…

総務課にいた頃とは比べ物にならない。

今も席は総務課にあるが…

取引先への就任のお知らせとご挨拶。

そして膨大な手紙に返信…

勿論、文面も自分で作らなきゃならない。
電話は取り次ぎをしていい人と、してよくない人…
忙しい彼に煩わしい仕事を回さない様に、私のところで仕分けしなくてはならない。

その他にも来客の応対…

これが結構神経使う。数年前取引先を招いてゴルフコンペが行われた。その際、前専務が、某メーカーのゴルフクラブを誉めちぎり、ここぞとばかりに見せびらかしていたそうだ。それも某メーカーと対立するメーカーの社長の前でだ。そのせいで大きな取引がなくなったとか…

お客様のお茶や菓子の好みひとつ間違えると、取引出来なくなる事もある。些細な事が会社の命取りになることもあると言うことだ。

覚えることが膨大のうえ、彼の健康管理まで…

でも大変ながらに楽しいのも事実。自分が必要とされてる実感が持てる。

「田附様がお見栄になりました」

受付からの連絡を受け、私はお客様二人をボスの部屋である執務室へと案内して来た。
田附様は、老舗のお茶屋田附園の社長である。昨年前社長が突然引退し、息子である彼が社長に就任した。

「はじめまして、田附と申します。本日はお時間をとって頂きありがとうございます」田附社長が挨拶をした。

田附社長はこういった場はまだ不慣れのようで、緊張がこちらにも伝わってくる。

ボスは「小野田です」と挨拶した。そして田附社長と握手を交わし、「どうぞお座りください」と言った。

年齢的には田附社長とボスはさほど変わらない。だが、誰の前でも毅然とした態度を見せるボスは、やはりこの人は凄い人なんだと再認識させられる。




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