愛してるからこそ手放す恋もある

耀一には何かと動いて欲しくて、個人的に連絡を入れていたのだ。社に着くと来客用のホルダーを首に下げ耀一に付いて社の中を見て回ることにした。

丁度、営業部を覗いた時、荒々しい声が聞こえて来た。

「だからなんど言ったら分かるんだね!?私は猫舌なんだよ!熱いと飲めないだろ!?君はお茶の一杯も入れれないのか!?」

何だあのおやじは!?

すると「またか…」と隣で耀一が溜息をつく。

まだ日本では女性がお茶汲みをする文化が残っているのか?

それもお茶の温いや熱いで声を荒げて?…

上に立つ人間がこんな低レベルなら業績も悪くなるだろうな!?

呆れていると、ちょうど奥のドアから入って来た女性社員が離れている俺の所まで聞こえて来そうな大きな溜息を付いた。ちょっと言ってくると言う耀一を引き止め様子を見ることにした。

彼女は全く躊躇うことなく声を荒げている男の元へ向かって行く。

耀一は彼女を見て佐伯さん?と呟いた。

すると彼女は声を荒らげていた男に向かって「熱いならフーフーしてさしあげましょうか?」とにっこり笑って嫌味を言った。

へぇーなかなか面白い女だ。

「もうその辺で止めて頂かないとパワハラで訴えますよ?」

へぇー口調は柔らかいが、言ってることは強い。
気は強そう女だな?

「なっなんだね!?こんな事でパワハラとは!?私はただお茶の煎れ方をだね?」

いや、充分向こうでは訴えられるぞ?

日本では、まだまだ女性の立場は弱く、訴える人も少ない様だが、アメリカ(本社)では日本の様な下の者が上の者に意見を言えない様な事は無い。

間違ってるものは間違ってる!と、上下関係など関係なく言える。
それに対して上の者が圧力をかけようものならパワハラで訴えられる。

すると彼女は思いもよらない行動にでたのだ。

彼女は男の湯飲みを触り、「あら?いい温度じゃないですか?でも、これで熱いと仰るとは奥様のお煎れになるお茶はさぞかし温い(ぬるい)んでしょうか?私、奥様に入れ方聞いてみようかしら?」

ぷっ…あの女すげぇーな?




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