愛してるからこそ手放す恋もある
何時ものように17時のエーデルワイスが奏でた。
いつもならまだ、帰宅しないボスも今日ばかりは、仕事をキッチリ切り上げた。

「ボス、本当に行かれるんですか?」

「当然!日本本社(ここ)の全社員参加にした俺主催の親睦会だからな!」

さようですか?

「では、私はこれで帰らせて頂きます。ボスとこれ以上親睦を深める必要もないですし!」

帰ろうとした私の首に腕をまわされ、帰るのを阻止された。

「聞こえなかったか?ここの全社員といった筈だ!」

「強制ですか?」

「梨華は強制!」

はぁ…
親睦会でしょ?
なぜ、私だけ強制なの…

そして私達は優華ちゃんと共に優華ちゃんが手配してくれた場所へ移動した。
そして歓迎会の行われる、店というか会場は駅前にあるSAKURAホテルのエグゼクティブフロアの宴会場だった。

「優華ちゃん?なんでホテルなの?」

「だって社員全員参加なんですよ?これだけの人数入れるお店有りませんよ?」

確かに、普通のお店ではまず無理だろう…

「それにCOOの小野田さんに安い居酒屋なんて失礼過ぎますからね?恭子さんにお願いしたら、気持ち良く引き受けてくれました」

「恭子に…?」

先月の女子会でエグゼクティブフロアの担当になるとかなんとか話してたっけ?

歓迎会は立食スタイルでおこなわれた。

『小野田さんってホントかっこいいよね?後ろ姿まで絵になるよね?でも、なんで佐伯さんが秘書なの?』

会場へ入ったとたん、意外にも、ボスの隣に居る私に質問が向けられた。

『佐伯さんって秘書の資格もってた?』

「いえ、ありません」

『それとも縁故入社だった?』

「いいえ。違います」

『佐伯さんって正社じゃないでしょ?』

「はい。契約です…」

『そうそう、出戻りだったよね?』

まぁ出戻りと言えば出戻りです…

『随分前に、失恋して会社辞めたってほんと?』

どっからそんな話が出てるのやら…

「あはは…どうでしょう?」

『縁故でもないのに変よね?秘書課には私の様な優秀な秘書が居るのに?』

ご自分で優秀と言えるあなたを、ある意味尊敬します。

大丈夫!なに言われても会社(ここ)が立ち直れば小野田さんは居なくなる。
そしたら、こんな嫌みも言われなくなる。それまでの我慢我慢!
ほら!笑って!いつもの様に

「あはは…そうですよね?」

飲み物を取りに行って、戻ってくるとボスは女性陣に囲まれていた。

これまた機嫌が悪いだろうと思っていたが、ボスはとても機嫌が良い。
見たこともない笑顔に気味が悪い。




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