愛してるからこそ手放す恋もある

毎月、小野田さんが居ない間、私は抗がん剤治療のために三日間入院する。
それは、私の体に残る癌を少しでも小さく、そして他へ転移しない為の治療なのだ。

「こんにちわ佐伯さん、お変わり有りませんか?」

「はい!今回もお世話になります」

五年前に癌が発見され、繰り返す入院で、私は既に呼吸器病棟では常連で、ほとんどの看護師さんと顔馴染みになっている。そして、今回の担当は前回同様、福野紗季さんだった。

「紗季さん、ここの病棟も男性の看護師さん随分増えたんですね?」

「はい。どの科も看護師の仕事って結構力仕事多いんですよ。だからもっと男性の看護師が増えてくれると私達も助かるんですけどね…」

「紗季さん、力仕事がどうとかより、イケメンが増えて喜んでるんでしょ?」

「アハハ…バレました?」

「バレバレですよ!メイク変わってますもん!」

紗季さんは舌を出して笑っていた。
看護師の仕事は漫画やドラマとは全く違って出会いが少ないと聞いたことがある。

医師とは仕事以外でまず関わることは無く、紗季さんも「医師同士の結婚はあっても、医師と看護師が結婚するなんて、まずないですね?」と言う。

全くと言うことは無いだろうが、医師は医師同士の付き合いがあり、仕事以外で看護師と関わる時間は極僅かなのだろう。

病棟看護師は特に勤務時間も不規則な為、出逢いを期待はするが、今は、イケメンの医師や看護師で目の保養をして楽しんでるだけで良いと紗季さんは言う。

「佐伯さんは恋してますか?」

「恋ですか…」

紗季さんは私が誠に婚約破棄されたことを知ってる。

「恋しても…その先の未来無いですからね?子供産めませんし…私の体なんて女じゃない…ですし」

「そんな事…御自分を卑下しちゃダメですよ!お子さんのいらっしゃらないご夫婦だって、幸せに暮らしてる方沢山いらしゃいますよ?」

「そうですね…起こってしまったこといつまでも悔やんでいても仕方ないですもんね?入院してる間、イケメン看護師君で目の保養してテンションあげますか?ウフフ」

「そうそう!保養しましょう!見るだけなら、誰にも迷惑かけないですからね!」と紗季さんも笑う。

馬鹿な話をして笑っていた時、棚に置いていたスマホが点滅しているのに気がついた。

確認すると、ボスからの着信が沢山入っていた。

なに?
何かあったの?

「あっ…点滴の前にちょっと電話してきても良いですか?」

「良いですよ!じゃ戻られたらナースコール押して下さいね?」

「はい」

電話を掛けるために病室を出てエレベーターホールへ向かった。




< 92 / 133 >

この作品をシェア

pagetop