副社長は花嫁教育にご執心


自分なりに色々考えながら、とうとう特別個室にご夫妻が現れる時間となり、私は部屋の前で待っていた。

程なく現れた、そろって身長の小さな可愛らしい夫婦が、黒川会長とその奥様、鈴子さんご夫妻だった。

私は初対面だけれど、この施設には何度も足を運んだことのあるらしいお二人は、とてくつろいだご様子。

「いらっしゃいませ。本日はお越しいただきありがとうございます」

満面の笑みで迎えた私に、お二人もにこにこと笑顔を返してくれた。

「いやぁ、お風呂からなにから気持ちがよかったよ~。すっかりお腹がすいちまった」

「ホント、ここは来るたびに素敵になるねえ。お料理も、毎回楽しみだわ」

「料理は出来上がり次第どんどん持ってきていいから、よろしくね」

終始ゆったりと和やかな口調で話す黒川会長ご夫妻は、見ていてこっちが癒されるような優しい雰囲気。

結婚して五十年経ってもこんなに仲のいい夫婦がいるんだなと、しみじみ憧れた。

「はい。今日は、おふたりの金婚式のお祝いにふさわしいお料理をたくさんご用意しておりますので、ごゆっくりお楽しみください」

私はご夫妻を部屋の中へ案内し、空調や内線、それから備え付けのカラオケ装置の説明を済ませた後でドリンクのオーダーを受け、一旦椿庵のバックヤードへ戻る。


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