副社長は花嫁教育にご執心
ドリンクと前菜を運ぶ準備をしていると、ホールの仕事が一段落したらしい久美ちゃんが少し手伝ってくれながら、宴会について尋ねてきた。
「黒川会長、来た?」
「うん。私は会うの初めてなんだけど、すごく感じのいいご夫婦だった」
「そうなんだ。まつりちゃんも、憧れちゃうんじゃない? 支配人と、いつかは金婚式~なんて」
「あはは、さすがにまだ早いよ」
金婚式どころか、そもそも結婚式すらまだだもん。
もちろん、黒川会長ご夫妻のような、長年連れ添ったからこその味のある夫婦になれたらいいなぁなんて、夢見る気持ちもあるけれど。
「うちらは、まだ夫婦ごっこみたいなものだし」
前菜をサービスワゴンに乗せてそんなことを言う私に、久美ちゃんは「照れなくてもいいのに」と苦笑する。
その会話を最後にお互い仕事に戻り、私は黒川ご夫妻のもとへと料理を運ぶのだった。