副社長は花嫁教育にご執心


「いやぁ、最初は全然好みじゃなかったのになぁ」

「それを言うなら私もですよ」

最初こそ、こちらが用意した通りテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた黒川ご夫妻だったけど、料理がコース中盤の煮物辺りに差し掛かった頃から、ふたりは仲良く横並びに席を変えた。

私は空いたお皿を片付けながら、寄り添うふたりが交わす微笑ましい会話に耳を傾ける。

「でも、今は毎日鈴子の味噌汁がないとダメなんだよなぁ」

「あら、お味噌汁だけ?」

「あのなぁ……店員のお姉さんが聞いてる前で言えってか?」

「あ、すみません。もう出ますので」

邪魔者は退散しますねーとにっこり笑ったのだけど、奥様の方が私を引き留める。

「お姉さんも聞きたいわよねえ」

「えっ。……ええ。もちろんです。黒川会長、男を見せてください!」

ちょっとびっくりしたけれど、今は女同士、奥様の味方になるのがよさそうだ。

私がその場に正座するのを見て、会長は照れたように白髪の頭を掻きつつ、話し出した。


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