副社長は花嫁教育にご執心


「わかったわかった。じゃあ、お姉さんに証人になってもらおうかな。鈴子と結婚して五十年……いろんなことがあったが、きみが妻でなければ今の私はなかっただろう。よく、ここまでついてきてくれたな。本当にありがとう。若い頃はそれこそきみに首ったけでよく口にしていた言葉だが、それとはまた違う意味で、改めて言わせてもらう」

そうして、会長はすうっと息を吸い込んでから、奥様に優しい眼差しを向けてひとこと。

「鈴子。私は、きみを心から愛している」

「……はい。私もですよ」

会長からの真正面からの愛の告白を、真正面から受け止める奥様。

ああ……なんて素敵なご夫婦なの……私と、灯也さんも、五十年後はこんな風になれるのかな。

「あらら、お姉さん、涙が」

ドラマのような、胸温まる記念日のワンシーンを見せていただいて、私は感極まってしまったらしい。

思わず目頭が熱くなって唇をきゅっと噛むと、それに素早く気づいた奥様がハンカチを差し出してくれる。

それを受け取るのはさすがに遠慮したけど、胸にあふれる思いだけはご夫妻に伝える。


< 103 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop