副社長は花嫁教育にご執心
「す、すみません……おふたりの深い絆に、とてつもなく感動してしまって……」
「あらまぁ。感受性が強いのねえ。そんな風に言ってもらえて、こちらもうれしいわ」
「うう……こちらこそです。お、お寿司、ご用意してまいります」
奥様の優しい言葉にさらに泣きそうになり、慌てて個室を後にして椿庵に戻る。
料理長はすでに、年配のご夫妻にちょうどよい、シャリが少量で食べやすそうな上品な握り寿司のセットを作ってくれてあり、同時に出す味噌汁を汁椀に注いでいるところだった。
私はその姿を見てから、最後にもう一度だけ宴会伝票を確認した。
「これで最後のお料理だけど、大丈夫だよね……」
上から下までじっとその紙を眺めていた私は、ある一点でふと視線を止める。
それは奥様の“そばアレルギー”についての記載で、さっきも確認したし厨房にも伝えてあるから、今日の料理にはいっさいそば関係は出ていないのだけど。
「なんか、不自然に消えてる……?」
“そば”の文字の下に、なにかぐしゃぐしゃっとペンで塗りつぶしてあって……その下に、もとは漢字三文字の言葉が書かれていたようだ。
読みにくいけれど、読めなくはなさそう。