副社長は花嫁教育にご執心
「なになに。甲……殻……る、い……?」
読んでいる途中で、自分の顔色が青ざめていくのを感じた。
こ、甲殻類アレルギー……?
いやでも、これ消してあるから、フロントの人が書き間違えて訂正しただけかもしれないし……、ただ、もしそうじゃなかったら大変だ。
私はすぐに内線でフロントに電話し、担当者を呼び出した。
「すいません、椿庵の宴会担当ですけど、黒川会長の奥様のアレルギーって、そばアレルギーで間違いないですか?」
『え? いや、甲殻類ですよ。伝票にもそう記載したはずですが』
う、うそ……! じゃあなんなのこの伝票! 誰かが上から書き直したってこと?
幸い、今までのお料理に甲殻類を使ったものはなかったはず。でも、さっき見たお寿司の中には確か……。
「甲殻類で、間違いないんですね?」
『はい。間違いありません』
「……わかりました。ありがとうございます」
うそ……うそ、うそ……やばい。これは、かなりやばい。
厨房を覗くと、すぐに料理長と目が合って、彼は得意顔で言う。
「ほら、味噌汁もできたから、持っていけ。寿司にも使った、カニの出汁がうまいんだぞ」
「りょ、料理長……すみません! カニ、だめなんです!」
「あん?」