副社長は花嫁教育にご執心
「灯也さん……!」
私は急いで彼を追い越して、肩で息をしながらスーツ姿の長身を見上げる。
「どうしたんだ。そんなに急いで」
「あの……実は、最後の、お料理の……お寿司が……」
急いでいるため、宴会伝票の書き変えのことは割愛し、とにかく黒川会長の奥様の甲殻類アレルギーを失念していたためお寿司がダメになり、現在作り直してもらっていることを説明した。
それから、自分の迂闊さでミスが発生したことを、ご夫妻に謝罪するつもりでいることも。
しかし、灯也さんの返した言葉は予想外のものだった。
「まつり、そういうことは馬鹿正直に言えばいいってもんじゃない。お前はスッキリするかもしれないが、ご夫妻は気を悪くされるだろう。せっかくの金婚式に水を差すことになる」
「でも……黙ってるのも、なんか」
「椿庵の料理長の腕は確かだ。作り直しと言っても、そこまで時間がかかるとも思えない。だったら、その待ち時間が不自然にならないよう、俺が時間を稼いでやるよ」
「え……?」
時間を稼ぐって、どうやって……?
「いいから、まつりは椿庵に戻って料理長を手伝え。できるだけ早く料理が出せるように」
「は、はいっ!」