副社長は花嫁教育にご執心


「失礼します……」

そっとふすまを開けて、目に飛び込んできた光景は、やはり予想通り。マイクを握って歌に入り込んでいるのは、支配人設楽灯也そのひとだった。

と、灯也さんがカラオケで熱唱してるー!

それは私も好きな男性ボーカリストの有名な曲で、結婚式にも使われるようなド直球のラブソング。

そのロマンチックな歌詞もさることながら、普段の話し声よりもどこかセクシーに感じるマイク越しの灯也さんの歌声にドキドキして、じっと見つめたいのを堪えながら、お料理をテーブルに並べる。

その間もご夫妻は灯也さんの歌に夢中で、音楽に合わせて体を揺らしながら手を叩いていた。

なるほど……カラオケで時間稼ぎをしていたんだ……。

「では、料理も届いたみたいですし、僕の歌はこれで」

音楽が止まって、灯也さんがマイクを置いた。

「ええ~? もうちょっと聞きたかったわぁ」

「いやいや、下手なのでもう勘弁してください。そうだ、ちょうどいい。彼女のことを紹介しますよ」

――えっ。


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