副社長は花嫁教育にご執心
嬉しそうにそう語る灯也さんは、つくづく不思議な人だなぁと思う。私の至らない部分を見つけるたびに、なぜそんなに表情が明るくなるのか。
「なんだよ、その珍獣でも見るような目は」
「いえ。深い意味はないです。さ、仕事仕事!」
灯也さんと別れて椿庵に戻り、再度料理長に宴会料理の確認不足を謝ったけれど、今回は特に嫌味を言われたりすることはなかった。
その代わりにというか、逆に心配されるようなことを言われてしまった。
「最近こう、立て続けにアンタ絡みで何かあるよなぁ……誰かに、恨まれてるとかじゃないよな?」
「え?」
「いや、さすがにそれはないか……ま、気にすんな」
ひとりごとのように呟き、料理長は自分の仕事に戻ってしまった。
“誰かに恨まれてる”って……私が、ってことだよねきっと。 思い当たるふしがあるとしたら、やっぱり灯也さんのことで妬まれてるとか……?
だとしても、さすがに今回の件は悪質すぎる。そんな嫌がらせをしてくる人が従業員の仲間内にいるだなんて、思いたくないよ……。
宴会自体は無事終わったものの、私は疑心暗鬼を抱え、その日の仕事中はなんとなく気分が重かった。