副社長は花嫁教育にご執心
手を出さない理由
――私、とうとう設楽まつりになりました。
「うわー、その新しい名札、支配人みたいで緊張するんだけど」
お客様のまばらなアイドルタイム。
久美ちゃんとバックヤードで一緒に瓶ビールなどの飲料の補充しながら、エプロンの胸元で輝く、【設楽】のバッジを指さされて渋い顔をされた。
「しないでよそんなの、中身はへぼい野々原まつりのままだよ」
「でも、そのバッジになったってことは、正式に夫婦になったわけでしょ?」
「……うん。昨日、無事に婚姻届を受理してもらった」
昨日の日付は十二月二十日。それが私たちの結婚記念日になった。
「支配人って家ではどんな感じなの?」
「えっと……基本てきぱきしてるけど、たまに甘えん坊、かなぁ」
「うそー! 想像できない!」
うん、彼と知り合いになる以前の私も、想像できなかったよ。
久美ちゃんの驚きに共感しつつ、彼の素顔をちょっとだけ明かす。
「家事の苦手な私に代わって色々やってくれるんだけど、疲れるとちょいちょいスキンシップを求めてきて……ちょっと子どもみたいで可愛かったりする」
昨日も並んでテレビを見ていたら、『眠い』と言いながら肩にもたれてきて、そのままウトウトし始めた。
私の肩だと固くないかな?と思って、そっとクッションを挟もうとしたら、急に目覚めて『まつりの体温感じたいからこのまま』とクッションを投げ捨ててしまった。その時の肩の重みが、なんだか幸せで。