副社長は花嫁教育にご執心
「誰なんだろう……何かあるなら、私に直接文句言えばいいのに」
「まつりちゃんは“支配人の嫁”だからね。直接何か言ったら彼にチクられそうとか思ってるんじゃない?」
「だからって、こんな嫌がらせみたいなこと……」
「うん……いつまで続くんだろうね」
ふたりしてため息をつき、その後は黙々と補充作業をした。
早く家に帰って、灯也さんと話したいな。
嫌がらせの件はおおごとになったら嫌だから黙っているけど、ただ彼の顔を見て、平和な時間を過ごしたい。今の私は、彼と過ごすその時間が最高の癒しだから。
*
「まつり。そろそろ料理の練習をするってのはどうだ?」
「えっ……料理、ですか?」
癒しタイムのはずの、二人の夜。ソファでくつろいでいた私は灯也さんの思い付きにぎょっとし、冷や汗をかいた。
同居し始めてもう二週間以上経つけれど、実は私、一度も料理をしていない。
灯也さんが、苦手なものは仕方ないからそのうち覚えればいいと言ってくれ、それに甘える形で外食や総菜に頼ったり、灯也さんに手料理を振る舞ってもらう日々が続いていた。
頑張りたい気持ちはあるのだけど、灯也さんの料理が思った以上に美味で、食べるたびに私のやる気は削がれていき……。
うちの弟といい灯也さんといい、最近の男子は料理が上手すぎて、これじゃ私が一から学んだって一生追いつけないや……なんて思い、ますます料理が億劫になっていった。