副社長は花嫁教育にご執心
「お、お言葉ですが、美味しいものが食べたいのなら私の料理は……」
なんて言い訳をしてみるけど、灯也さんはキッチンの前で腕組みをし、すっかり教える気満々のようだ。
「俺は、別に美味しいものが食べたいわけじゃない」
「じゃあパンでも齧ってればいいのでは……」
「あのなぁ、どんなに下手でもたまにはお前の作ったものが食べたいって意味だ」
「……うう、ですよねえ」
共感しつつも行動が伴わない私は、灯也さんに引っ張られて無理やりキッチンに立たされた。
「生姜焼きは好きか?」
「好きですけど、作れません」
「だから教えるって」
仕方がない奴だ、というような口調だけど、その目は楽しげに輝いている。
ああ、こんなにも女子力が低い私をお嫁にもらってくれた人だもんね……。私も、ちょっとくらいはやる気を見せなければ。愛想つかされちゃうよ。
ようやく受け身の姿勢を脱する気持ちになり、私は腕まくりをして手を洗った。
――そうして、彼の指導の下調理することおよそ三十分。