副社長は花嫁教育にご執心
「なんでもないですってば」
「なんだよ、言わないと襲うぞ」
灯也さんはそう言って、私のつかんでいる布団をぐっと下に押しのけた。
彼は冗談で言ったのだと思うけど、私の何とも言えない頼りない表情が露わになり、灯也さんが首を傾げる。
「……どうした、情けない顔して」
「いや、あの、だから……」
今まさに“襲う”って表現された、その行為のことなんですけど……。
そう言いたいのに言えなくて、なんでか泣きそうになってきた私は、潤んだ瞳をしばたかせ灯也さんを見つめる。
すると、彼の瞳が真剣みを帯び、私の涙の理由を知ろうとするように細められた。数秒の沈黙ののち、灯也さんが私の名を呼んだ。
「まつり」
「……はい」
「ちゃんと俺のこと見て」
そうして視線を絡ませた瞬間、衣擦れの音がして、灯也さんの影が私の上に落ちる。
天井の代わりに、伏せられた長い睫毛が目の前に迫り、漂う彼の香りが急に濃くなったと感じた瞬間、やわらかな唇同士が重なっていた。
角度を変えて、何度も。優しく触れ合うキスが続く。