副社長は花嫁教育にご執心
瞳に溜まっていた涙がスッとシーツの上に落ち、唇が離れていくのと同時にゆっくりまぶたを開けると、すまなそうな灯也さんの瞳とぶつかった。
「……ごめん。もしかして俺が手を出さないから、不安にさせてたか?」
私は濡れた目元をごしごしこすって、素直に打ち明ける。
「ちょっと、だけ……。自分に魅力がないのは自分が一番よくわかってるから、不安になるなんて、おこがましいんですけど……」
「あのなぁ……誰が好き好んで魅力のない女と結婚したりする?」
目の周りに残る涙の跡を、灯也さんの親指の腹が優しく撫でる。
「……でも、私の女子力の低さは、灯也さんだっていつも言ってるじゃないですか」
「その女子力とやらが人の魅力のすべてを表してると思うな。お前はさ、誰が何と言おうと、俺にとっては可愛くて仕方のない嫁だよ。手を出さないのは、むしろまつりのことが大切だからだ。だから、焦ることなんてない」
私のことが、大切、だから……。
彼の言葉で、心にかかった霧がゆっくり晴れていくのを感じた。
「灯也さん……」
胸にあふれる愛おしさを伝えるように、思わず彼の名を口にする。