副社長は花嫁教育にご執心
茶目っ気たっぷりに微笑むお母様に、肩の力が抜けた。
なんだ……。私、灯也さんとご両親の仲が険悪になるなら離婚しなきゃならないかもって、そこまで想像してしまったよ。
私と同じように呆気に取られていた灯也さんは、深いため息をついてからご両親に聞く。
「なんか変だと思ったんだ。にしても、同じような経験って?」
「俺は政略結婚を蹴って、ごく一般的な家柄の母さんと結婚したからな。そりゃ周囲からやいやい言われたよ。母さんも、いろいろ嫌がらせとか受けてたろう?」
嫌がらせ――。その言葉に過敏に反応し、私は改めてお母様を見つめた。
「そうねえ。“設楽の財産目当て”とかは言われるのはまだましな方で、ぶすとかばかとか、低俗な言葉での罵りもたくさん受けたものだわ。職場で私物を盗まれたりしたこともあったわね」
まつりさんは、今のところそういうのはないかしら?と聞かれて、私は咄嗟に笑みを張り付け「大丈夫です」と答えた。
ここで「実は私にも嫌がらせが……」とカミングアウトしてしまったら、ご両親にも灯也さんにも心配をかけて、結婚生活に暗雲が立ち込める気がしてしまったのだ。
本当は仕事に行くのが憂鬱なこともあるけど、久美ちゃんのような理解者もいるし、こちらが無視を貫いていれば、そのうち嫌がらせも止まるだろう。