副社長は花嫁教育にご執心
「もしもそんなことがあったら、ちゃんと相談しろよ?」
灯也さんが、真摯な瞳で言い聞かせてくれる。その思いやりが嬉しくて、でも真実を黙っている身としてはちょっと胸が痛んだ。
本当はつらいのだと打ち明けたくもなるけど、つまらないことで忙しい灯也さんを煩わせたくないし……。
「はい、わかりました」
私は従順な妻のふりでうなずき、微笑んだ。
その後、嫁いびりの演技をやめたご両親はとてもいい方たちで、灯也さんの昔の話を色々と聞かせてくれた。
バスケットに打ち込んでいた学生時代、校内にファンクラブがあるほどの人気を誇っていたという灯也さん。
バレンタインにはチョコを大量にもらってくるけど、甘いものは得意じゃなく、好物はお母様の焼いた甘さ控えめのベイクドチーズケーキなのだとか。
「まつりさんにも教えておこうと思って、レシピを書いてきたの」
お母様が、バッグからうれしそうに、レシピをメモしたキレイな花柄の便せんを取り出した。美しい文字が並ぶそれを見て、私ははっと思いつく。