副社長は花嫁教育にご執心


「灯也さんも字がすごくきれいですけど、もしかしてお母様がご指導を?」

「あら、よくわかったじゃない! 私、お習字には昔から自信があるの。この人は偉い癖に字がものすごく汚くてね、それがいやで息子には絶対きれいな字を書かせようと思ったの。努力が実を結んでよかったわ」

隣のお父様の方をバシッと叩き、美しい笑みで毒を吐くお母様。しかしお父様は嫌な顔ひとつせず、照れくさそうに頬をかいていた。

「いや、私も最初は妻に習ってみたんだが、どうもスパルタすぎてなぁ」

「まったく、この人ときたら料理も掃除も洗濯もできないし、私がいないと何もできないんですよ。年賀状だって、この人の分まで私が全部手書きするんです」

「そ、それはすごいですね……!」

というか、私としてはお母様のすごさよりも、お父様の家事の出来なさに親近感を覚えてしまう。

お父様、仲間です! 難しいですよね! 家事!

そう言って握手でも求めたいところだけど、ここで自分の家事の出来なさを披露してどうするって感じだ。

私はとりあえずにこにこしてその場をやり過ごし、会食が終わるころにはどっと疲れていた。


< 128 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop