副社長は花嫁教育にご執心
「灯也さんも字がすごくきれいですけど、もしかしてお母様がご指導を?」
「あら、よくわかったじゃない! 私、お習字には昔から自信があるの。この人は偉い癖に字がものすごく汚くてね、それがいやで息子には絶対きれいな字を書かせようと思ったの。努力が実を結んでよかったわ」
隣のお父様の方をバシッと叩き、美しい笑みで毒を吐くお母様。しかしお父様は嫌な顔ひとつせず、照れくさそうに頬をかいていた。
「いや、私も最初は妻に習ってみたんだが、どうもスパルタすぎてなぁ」
「まったく、この人ときたら料理も掃除も洗濯もできないし、私がいないと何もできないんですよ。年賀状だって、この人の分まで私が全部手書きするんです」
「そ、それはすごいですね……!」
というか、私としてはお母様のすごさよりも、お父様の家事の出来なさに親近感を覚えてしまう。
お父様、仲間です! 難しいですよね! 家事!
そう言って握手でも求めたいところだけど、ここで自分の家事の出来なさを披露してどうするって感じだ。
私はとりあえずにこにこしてその場をやり過ごし、会食が終わるころにはどっと疲れていた。