副社長は花嫁教育にご執心


「そういやこの後どうする? 少し時間があるから、街中でデートでもしようか」

駐車場に着き、車に乗り込んだ彼が、腕時計を見てそう提案してくれる。軽井沢でもデートはしたけれど、ドライブデートは初めてだ。

「したいです、デート!」

だって、こうしてずっと灯也さんの横顔が独り占めできるなんて、幸せ過ぎない……?

恋人同士の時期がない私たちは、結婚してもなおいろんな初めてがあるのがいいなって、こういう時に思う。

「街中ではあまりそばを離れるなよ? まつり、なんか危なっかしいから」

「失礼な。迷子にでもなると思ってます?」

「……そういう意味じゃないって」

独り言みたいにぼそっと呟いて、灯也さんが車を発進させる。その横顔はちょっと拗ねたような感じだ。

「灯也さん?」

「いい。わからないなら」

こちらを一度も見ることなく、前方を向いたまま突き放すように言った灯也さん。

あれ? なんで突然そんな不機嫌に? 私、何かまずいこと言った?

しばらく車窓を眺めしょんぼりしていると、私の頭にポンと大きな手が乗せられた。


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