副社長は花嫁教育にご執心
「……心配なんだよ」
そんな言葉に顔を上げた先には、灯也さんが少し気まずそうに微笑んでいて。
「まつり、最近可愛くなったから……ナンパでもされやしないかって」
「えっ?」
予想もしていなかった言葉に、どきんと胸が跳ねる。
私が、可愛くなった……?
そりゃ、毎日でないにしろ灯也さんが丁寧にブローしてくれる髪は確かに艶やかになったし、ナチュラルと言えば聞こえはいい手抜きメイクも彼の指導でちょっと華やかになったりはしてるけど、そんな劇的変化はないですよ……?
「ありがとうございます。でも、私には灯也さんという素敵な旦那様がいるのにナンパなんか相手にするわけないじゃないですか」
はにかみながら、思ったことを正直に告げた。
私は、まだまだ灯也さんのことが知りたいし、一緒にいろんな経験をしたい。ナンパなんかに構っている暇はないのだ。
「まつり」
そのとき、大きな交差点にさしかかり、赤信号で停まったところで、彼に名を呼ばれる。
はいと返事をして運転席に顔を向けた次の瞬間には、灯也さんの顔が目の前に迫っていた。